2010/1/6 研修初日だが結構手術が組まれていた・・・ [平日]

6:40 7Fの骨科病棟に向かう。朝の回診につくため、昨日教授とこの時間に約束したのだ。シニアレジデントの許先生も待っていた。彼は今、Dr.Tuの下についているようだ。ローテーションで変わるとのこと。
7:00 専属看護師(名前を忘れた)が毎朝作成した患者表を見ながら、各部屋をくまなく回る。この時間に毎日である。この継続した行動に脱帽するばかりだ。Dr.Tuの回診の様子を見ていると、彼の人柄の良さ、いかに患者から慕われているかというのがとても良く解る。今まで見てきたDrsの中では最高峰の名医だろう。技術的にも人間的にも。見習うべき点が多い。追い越すことは到底できないだろうが、その姿をしっかりと頭に焼きつけておきたい。尊敬すべき師匠が出来た気がする。でもDr.Tuは気楽な関係が好きなようで、私のことはmy friendと呼んでくる。できるだけ対等に話ができるようにしていきたいものだ。本日手術予定のBPIの若い男性やLD muscleのfunctional muscle transferの患者なども診察する。このような大変な手術が2つも3つも組まれているのだから驚きである。
7:40 Floraが持ってきてくれた朝食を手術室でDr.Tuとともに頂く。このスタイルは前回と同じだが、メニューは決まってハンバーガーと牛乳である。しかし毎日このような待遇では申し訳ないので少し遠慮しようかと思う。結局はそれでもお言葉に甘えてDr.Tuと一緒の手術の日だけにしてもらうことになった。今日は手術室休憩室が騒がしい。何か恒例のカンファレンスをしていたようだ。看護師さんたちが大勢いた。
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8:20 早速、本日1例目のLD muscleのfunctional muscle transferである。この症例は2年ほど前に肘から前腕の重度開放骨折によるダメージにより手指屈曲の機能が損なわれてしまった症例である。前腕掌側部の広範囲軟部組織欠損によるため。すでに受傷後比較的早期にALTによるfree flapで欠損部をカバーしている。また粉砕の強かった肘関節の骨折に対しては、TEAで再建されていた。しかし、通常遠位のコンポーネントは尺骨に挿入するのであるが、尺骨の粉砕が高度だったため、已む無く、橈骨頭側に挿入してあったので驚いてしまった。Special techniqueであると言っていた。もうこれらだけでも日本でなら症例報告ものであるが、今日は指屈曲機能の再建のために、LD muscleをthoracodorsal neurovascular系のpedicleをつけたままtransferするとのことである。
8:40 まずは前腕掌側の展開から開始する。前回のALT flee flap部分を展開する。血流良好である。Flapの動脈は橈骨動脈にend to sideで吻合したとのこと。Fasciaが見えてきてこれをcutしてfree flap areaでない本来の組織がお目見えする。癒着は中等度みられる。FDPが見えてきたので、それぞれを剥離・同定した上で1本ずつtraction testでどの指かを確認。FDPのⅡ~Ⅴと思われた。続いて肘関節掌側を3cm程度展開し、pulleyとなるmuscleを同定しておく。Muscleは萎縮のため頼りなさげであったが、おそらくbraciallis muscleだったと思う。いったんこれらを生食ガーゼで充填しておき、LD muscle側に移る。
9:30 マーキングもせずに一気にメスを腋窩から斜めに背部に向かって走らせる。ほぼ広背筋の走行に一致していると思われた。このためらいのなさに経験に裏打ちされた技術が見てとれる。迷いなく皮下組織は電気メスでスパスパ展開していく。LD muscleが見えてきたら、前方marginの同定が大事なので、前鋸筋との境界を同定しつつ展開していく。ここまでずっと電メスできている。時々小さな動脈より出血があるが気にせず突き進む。まだ肝ではないようだ。Anterior borderをLD muscle fiber方向に背側(棘突起付着部付近)まで展開しておき、後方marginを同定していく。始めはこのborderが解りにくかったが、電メスで浅く浅く展開していくうちにその深層に位置するTeres majorとはmuscleの走行が異なるので見分けがつく。ここら辺を剥離していくと肩甲骨が触れるようになる。前方の真ん中くらいから後方に向かってLD muscleを持ち上げるように指を入れると後方と交通するようになる。このLD muscle下面との疎な結合組織は容易に電メスで剥離できていくのでなかなか楽しい。前方・後方から広背筋の棘突起付着部の背側方向に展開していき、胸腰筋膜に移行する辺りは組織が固くなっている(腱性分みたい)。棘突起からこの硬い部分のみ切離すると、あとは少し引っ張るだけで下面の軟部組織が剥がれかけてくるので、後は電メスでcutのassistをするだけで綺麗に遠位側が切り離せる。
10:00 助手に生食ガーゼで挙上したmuscleごと持ち上げてもらいながら、今度はLD muscleの下面を剥がすように近位側に向かって剥離していく。重要ポイントはthoracodorsal vesselsの前鋸筋への枝をしっかり同定すること。それから本幹に向かって丁寧に展開していくことである。それまでは、あまり恐れるものはない(所々前鋸筋方向へ肋骨へ向かう小さなbrunchがあるが)。本日の症例は、前鋸筋へのbrunchが2本あるという破格であり、Dr.Tuは驚いていた。今まで見たことがないと言っていた。いろいろと解説を加えてくれながら(必要でない所まで展開してくれたり・・・)ゆっくりと進めてくれた。それでも1時間程度で挙上は終了していたと思われる。前腕遠位掌側のFDPに縫合できる程度までの長さを確保するため、近位側への展開を多少延長しmobilizeした。Thoracodorsal nerveを刺激して良好なLD muscleの収縮があることを確認する(かなり強かった)。
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10:30 皮下トンネルをガーゼを利用して作成(しっかりとmuscleの収縮が伝わるように充分にspaceを確保する)。挙上したLD muscleを順次通していく(腋窩後方より肘腹側方向に向かって)。先ほど展開して置いたpulley部分の下面を通そうとしていたが、pulleyに利用するmuscleが脆くて展開の際に引っ張って切れてしまう。仕方がないので人工靱帯を使用することとなった。素材としては強すぎる感があったが、周囲と余裕を持たせて(muscleが決して圧迫されないように)縫合した。最後にFDP群との縫合であるが、その前にⅡ~Ⅴ指のPIP関節を屈曲位にしてK-wire(台湾ではK-pinと呼んでいる)で固定しておく。これで縫合部に過度な緊張がかかりにくくなる。4本を二つにまととめた上で、最終的にはLD muscleの腱様成分に一つにして重ね合わせて縫合した。全体を巻き込むように工夫した縫合方法をしていた。術後3週でK-pinを抜去して自動運動をすぐに開始するのだそうだ(end to endで縫合した場合では一般的には6週経過しないと腱の再生は起きないが、この症例は重ね合わせて縫合しているので強固なのだそうだ)。
11:00 非常に見応えのある手術であったが、もう閉創になった。ある程度まで縫合した後、皮下はレジデントとテクニシャンのMr.シーに任せていた。私も結局途中で手を下させてもらってしまう。実に難なく手術が終わってしまうので疲れは殆ど感じない。日本でこれだけのskillがあればかなり有名になるだろうなとか思ったりする。
11:30 まだ片付け段階であったが、Dr. Tuと一足先に昼食を摂らせてもらった。いつものように弁当を頂く。何でもここで買えば20NTDとのこと。スープもついているし安い。
12:00 既に次のvertebroplastyが準備されている(局麻だから準備が早かった)。外から見学させてもらうが、Mr.シンが手慣れた様子で準備・アシストしている。このようなテクニシャンがいたら本当に楽だと思う(当然それまでに教育されているのだろうが)。淡々と手技が進んで15分程度で全て終了してしまった。Pedicleの片側だけから骨セメントを3ccまで注入していた。これで手術点数がfree flapと変わらないのだから、台湾の点数も不思議である。ここでは正面・側面を同時に見ることができるイメージを使用している。かなり便利である。
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13:30 再び休憩した後、本日のメインイベントである全型BPIの2度目の手術である、contara C7 nerve transfer graftに入る。昨年のAPFSSHのプレコングレスBPIセミナーのライブ手術でD・C先生がしていたあれだ。しかしあの方法とは違うそうである。D・C先生は患側の尺骨神経を遠位から血管付きでfreeとして採取して健側のC7と健側の正中神経に縫合するという方法を取っていたが、この症例は尺骨神経の条件が良ければ血管付きで遊離とはせずpedicleをつけたまま同様の手技を行うそうだ。あまり想像できなかったが、生涯初の難手術に第2助手として入らせてもらった。日本で、この手術に立ち会ったことがあるドクターはどれ程いるだろうか?おそらく2桁はいないかも知れない。まず、遠位側より尺骨神経を展開していく。前腕部にもいくつかの栄養血管があったが、これらはすべて結紮する。遠位側はGuyon管まで展開し、運動神経が分岐する先までを同定しておく。
14:20肘付近の展開が姿勢上ちょっと厄介でやりにくかった。Osbone bandを切離し、肘部管を展開し徐々に筋間中隔を展開して近位側に剥離していく。徐々に尺骨神経に入ってくる栄養血管を注意しつつ展開する。上腕部でも何本か入って来る箇所があり、必要な長さにより、pivot pointとする場所を決めていた。上腕の近位となると尺骨神経の伴走血管も太くなっている。ここらに損傷を与えないように展開する。
15:00 Pivot pointを決めてから、神経の遠位端をcutした。適宜デジカメで撮らせてもらったが、腕から見える長い回虫のようである。何とも不思議な光景だ。
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対側の鎖骨上(腕神経叢)まで届くことを確認した後、皮下トンネルを作成。神経は生食ガーゼにくるんで皮下を通していた(適度な摩擦力により引っこ抜けずに容易に通過する)。
15:40 pivot pointのやや近位で尺骨神経をcutして、その断端を近接した正中神経に端々縫合する。驚いたのが、マイクロは導入せずにルーペのみで縫合したことだ。このレベルのFascicleがいくら太いとはいえ・・・。9-0ナイロンでepineuriumのみで6針程度簡単に縫合してしまった。もちろんbacklingしないよう、またfuniclus patternにも気を付けていたようだが。反転せずにbacksideはそのまま縫っていた。手元が非常にstableである。簡単に見えてしまう。
16:00 いよいよ対側のC7の展開に移るのだが、その前に患側は展開部が広いので先に閉じるとのこと。ある程度縫合してから、後はテクニシャンに任せて休憩に入ることになった。実に効率のよい時間の使い方である。
16:40 何だかんだで結構休んでしまっていた。Dr.Tuが戻って来るまでは皆待ちの状態なのだ。早速、健側の鎖骨上を展開していく。鎖骨を露出しomohyoid muscleを展開するのだそうだが、fatが多く多少手間取る。ようやく見つかったのだが、その下面にあるはずの腕神経叢がなくて再び筋肉成分が現れる。??とDr.Tuが珍しく躊躇している。今まで見たことがない解剖なのだそうだ。何と、omohyoidが二つ存在しているのだそうだ。近位側に更に延長して事態が理解出来たようである。このようなケースに遭遇した場合には、焦らず展開を広げて馴染みのあるランドマークとなるような解剖を見つけることが重要かも知れない。事態が呑み込めてからは神経叢を展開していった。1本ずつ同定しながら進めていく。肩側からsuprascapular、C5、C6・C7と存在し、深層に血管に近い位置にC8Th1が存在する。これらを何度もneurostimulatorを用いながら丁寧に確認していく。この症例はC6と思われるnerveの働きはBicepsの動きが大半であった。C7と思われるnerveは何度も何度も刺激して動きを確認する(犠牲にする訳だから)。ここで技を教えてくれた。このC7のnerveを前方と後方に分けて、それぞれを刺激するのだ。すると前方成分は主に大胸筋の動きで後方は上腕三頭筋や手指伸筋なのだ。すなわちhyper selectiveに神経を利用しようというのだ。前方だけを犠牲にするらしい。大胸筋力と指の知覚障害が多少犠牲になるとのこと。。。始めはriskyに感じていたが、何だかその位なら多少は仕方ないのかとも思ってしまう。
17:30 いよいよC7の前方成分のみcutする。長い患側からの尺骨神経断端をrefreshしてsize muchingさせていよいよ縫合となった。先ほどよりも術野が狭く深いので、若干やりにくそうではあったが、またもやルーペのみでうまく合わせながら縫合していく。最後の1針をやってみるか?といきなり言われて渡された。きっとテストに違いないと思ったが、ちょっと動揺してしまう。まあまあ手技的には普通に縫合できたが、funiculusがちょっとはみ出ているようで、それが気になり、申し出た。Dr.Tuは解った代ろうという感じで、はみ出たfuniclusを処置してくれてそのまま縫合してくれた。あ~、良いところを見せられなかった。これくらいの技量なのかと一発で判断されたのだろうなとがっかりしてしまう。もっと自信を持ってゆっくりとすれば良かった。今後もこういうケースがあれば物おじせずやらせてもらうことにしよう!!
18:00 終了した。あとの閉創と片付けを任せて手術室を後にした。自分としては最後が残念だったけど、また良い経験を積ませてもらった。日本にいては味わえない体験だった。凄すぎる!
18:30 いったんドミトリーに戻って、入口に向かう。程なく、Dr.Tuが自家用車(BMW)で迎えに来てくれた。Dr.Tuのお母さんも少し遅れてやってきた。今日はみんなで日式料理屋に食事に行くことになっているのだ。現地でFloraが合流するとのこと。
19:20 高雄市内のレストランで4人わいわいと楽しみながら食事したのであった。Dr.Tuはあまりシリアスな話や仕事の話はしたくないのかも知れず、できるだけ他愛もないことをFloraと喋っているのが良いのかな~と思っていた。こういう時に息抜きでしょうからね。
21:30 ちょっと満腹でドミトリーに戻った。ノンアルコールだったので身体は楽である。
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