2010/03/08 ラストウィーク始まる。ようやく舟状骨VBGの症例を経験。 [平日]

6:55 回診を始める。教授は昨日の夜に中国本土の杭州という都市から帰ってきたばかりだ。土日だけで帰ってきている。まさに休む暇なしで動き続けている。付き合い始め当初は本当に凄いな~とばかり思っていたが、下のドクターがそのスタイルに馴染んでいないことも考えると、やはりやり過ぎなのかも知れないなと最近は思うようになっている。
7:20 先週末までにかなりの患者が退院しており、その代わりに本日手術予定の13人が入院してきていた。本当に入れ替わりが激しいのである。全てのサマリーや指示などを医者が全てしていたら幾ら時間があっても足りない。専科看護師や看護師がその辺りはしっかりサポートしてくれている。レジデントでさえも、あまり病棟で指示出しに追われていたりする姿は見ない(当然しているとは思うが、日本の奴隷同様の大学研修医に比べればはるかに医者としての仕事に専念できているように思う)。日本の医者は人が良すぎるというか、馬鹿正直なのだろうか?
7:50 手術室前でFloraが朝食を持って待っていた。いつものハンバーガー+少し変わったミルクティーを食べながら教授と過ごす。やはり話題は週末のこととなり、ある程度Floraに聞いて知っているとは思いつつも、詳細に報告しておいた。教授も香港経由で杭州まで1泊2日の強行スケジュールで行って来たと話してくれた。
8:30 1例目の脊椎手術は少し特殊な症例だったので入らせてもらった。60代の女性のL2破裂骨折の症例に対し、除圧+後方固定を行うとのこと。その際にL2椎弓を通して圧壊した椎体内にケージを詰め込むというのだ。報告はあるらしいが、あまり一般的な方法ではないと思われる。除圧に対しては通常の様にリュエルやケリソンで素早く椎弓切除を行い、前方から張り出している骨片も切除する。硬膜管自体は充分に膨隆し除圧は終了。続けてpedicle screwを先に設置(両側L1とL3の4本)しておいた後、右のL2椎弓根に孔を開け、徐々に拡大していく。この際、L2椎体は圧迫されて扁平化してしまっているため、椎弓を通し椎体内に刺入する報告に際してはimage側面を何度も確認していた。やはりポイントは刺入ポイント・方向が決まったら、小鋭匙で感覚を確かめながら徐々に椎弓根内にズブズブと刺入していくことだと思われる。更にこの孔を先の鈍な箱ノミで拡大していく。9mmのケージ(骨は充填していなかった)を椎体内に1つと、椎弓根骨折を予防するためということで更に1つ充填していた。始めてみるテクニックにただ感心するばかりである。このような手技は脊椎を専門にする人達の間では一般的なのだろうか?
10:00 何だかんだでも1時間20分程度しかかからなかったのだから手慣れたものである。しかし、今日はいつものメンバーではなく(Mr.レイが実父の死去で忌引き、いつもの手洗いナースも休みだった)、少しぎくしゃくした感じは終始見られた。
10:30 次の脊椎は通常のものらしいので、いったん手術室を後にさせてもらい、私の第2の仕事場でもある図書室に向かう。幾つか読んでおきたかった文献があったのと、少し休みたかったのである。奥の方なら机で寝ていても殆ど誰にも気が付かれないのである。
12:30 予定より戻る時間が遅くなってしまい、皆の昼休憩時間から外れてしまったようだ。仕方なく一人でランチを食べる。教授達はもう3例目の脊椎手術を始めたばかりのようだった。入りそびれてしまったが仕方ない。次の症例(脊椎再手術の難しい症例)に入ることにした。裏では、Dr.許がいつもの如く、TKAをもくもくとこなしている(3例目)。このようにルーチンワークで流れ作業的にやると時間は早いだろうが、手術自体は面白みもないと思う。その個々の症例に合わせた詳細な評価が欠落しているからだ。再手術の症例にしても、何でこの症例が術後数年足らずで再手術に至ってしまったのか?を検討することがないのである。ここら辺が大きな問題だろう。日本のように超高齢化社会が進んでしまうと、嫌でも長期成績まで考えざるを得ないだろうから。ここのドクター達もいずれはそのようなことに気付いていくのであろうか?
13:00 医局に戻り、手術記録の整理などを行う。今週金曜日の朝のカンファレンスでは簡単にお礼の挨拶などがあるはずなので、ある程度準備をしておこうかと考える。
14:10 脊椎3例目も終わった頃だろうと思い、手術室を訪れる。TKAの予定症例が熱発のため中止となったこともあり、脊椎が2列並行で行われることになった。誰か影武者が現れるのだろう。14:30 教授の予定手術の脊椎に参加させてもらう。この症例は、Dr.干の術後患者(何でDr.Tuがfollowしているのかは不明)で術後1年以上経過しても症状が取れないということで再手術に至った症例だった。L2・3・4・S1の両側にpedicle screwが刺入され、PLIFも行われている。S1のscrewのルースニングとL4/5/Sでの不安定性が画像で確認されていた。術前評価としてはその周囲のrootの炎症症状と不安定性による腰痛と診断している。
15:30 椎弓切除をしてしまっており棘突起ごとないため、電気メスでの展開は慎重にならざるを得ないのだが、実に豪快に進んでいく。経験に裏打ちされた技術があるのだろう。基本は正常な部分から攻めて行くということだろうか?怖いのは正中の硬膜管周囲である。まずはインプラントを全て露出させる。全体的にscrewの突出もありbulkyな印象で腰背部痛の1つの原因かも知れなかった。しかし、S1のpedicle screwは両側とも手で簡単に抜けてしまうくらいルースニングを来していた。前回刺入していないL5(個人的には、前回手術で1つ抜かして固定するのであれば、L3かL4に入れずにL5に入れておけば良かったのにと思っていた)の刺入口を探すのが困難で、何度もimageで刺入位置と方向を確認していた。メルクマールがないため、非常に解りづらいのだ。百戦錬磨の教授にしてもかなり手こずっていた。素人が下手に手を出すと偉い目に遭うかも知れない、そんな症例だろう。
16:00 結局はL2・4・5・Sの両側にpedicle screwを全て入れ直しバーも新しい物に変えた。クロスリンクはL2/3付近に設置した。脊椎の固定に関しては、このようなfailed backの症例に対しては非常に効果があるかも知れないが、若年者のprimaryで不安定性の強くない症例に対して施行するのは個人的には反対である。時々そのような症例を見かけた。Facetの温存という概念がないのである。これだけ脊椎症例をしていて、固定のない症例を殆ど見かけないということ自体が異常だと思われるのだ。
16:30 教授も疲れが見られていたため、コーヒーブレイクにてrefreshすることになる。Floraの気分でその日の食べ物が決まるようだ。今日はいつもと同様のパン類とコーヒーカプチーノだった。さて、これから期待の舟状骨偽関節に対する血管柄付き骨移植術の症例が始まる。今日は写真とともにビデオ撮影も行う積りでいたので、SDカードのメモリを最大限使用できるように今まで撮りためた写真データをハードディスクやUSBメモリに移し替えておいた。
17:30 手術室内でハリーコールがあったりして、麻酔導入に手間取ったりしていたので開始が遅れてしまった。並列で教授の最後の手術である局所麻酔下の手根管症候群のセッティングも進んでいた。デザインから写真に収めていく。教授は皮膚上へのデザインがとても上手だ。
IMG_5083.jpgIMG_5082.jpgIMG_5084.jpg
しっかりと内部の解剖が頭に入っていないと、マーキングも上手に書けないものである。そのような境地に早く辿り着きたい。逐一カメラに収めていく。しかし、肝心の手技の方が記録を残すことに必死でなかなか臨場感を持って得られない。時折、ビデオを止めてじっと近づいたり(ちょっと教授としてはやりにくかったかも知れない)。
18:00 途中で手根管の方に行ってしまい中断となる。手術は、橈骨神経浅枝を同定した後、伸筋支帯上に見える血管を確認(駆血は250mmHgで締めるだけ)。1-2コンパートメント上の1,2ICSRAと2-3コンパートメント上の2,3ICSRAを同定。通常は2,3の方が確実で血管茎も長いのでこちらを用いた方がやり易いと言っていた。リスター結節を触れて、EPLの走行を確認した上で、伸筋支帯を含めてpedicleごと必要なblock分の橈骨遠位端部をスピッツメスで切り取る。採取するPedicleの幅は充分に広い方が安全である。解剖的にはそれ程難しくはないと思われる。慣れたら30分程度で採取は充分に行えそうだ。
IMG_5096.jpg
18:30 待っている間は、Mr.シーとDr.呂などとカラオケの話など、くだらない話をして過ごす。教授がいないスキに、局所の解剖を手にとってしっかり観察しておく。
19:00 舟状骨側の処置に移る。若干皮切を遠位に伸ばして(EPLとECRBの交点のあたりが、R-C jointのscaphoid fossa付近だった)、これら腱をretractして背側関節包を露出。舟状骨周囲には滑膜増生が認められた。これらを切除して舟状骨を露出していく。偽関節と思われる部分(Dr.Tuはここが不安定性があると示すが、実際そうは見えなかった)を削っていく(後でimage checkすると偽関節部よりやや近位だったよう)。また、骨棘を手関節背屈・橈屈時にimpingementされないように切除していく。この部分は僅かにOA性の変化が見られる。採取したblock状のvascularized boneをはめ込むように、偽関節部をエアトームで掘削する。しっかりはめ込めるように細工しておくことがポイントだ。続けて、ECRB・EPLの下にpedicleを通して(この際に手関節を背屈位にしておく方が腱の緊張が取れてunderneathに入れ易い)細工した舟状骨背側部にvascularized boneを移行する。何度か形を調整してぴったりとはまり込むように細工した後、AO 1.5mm mini screw 2本(近位側、遠位側にそれぞれ向かって刺入)した。この際に、vascularized boneに付着しているpedicleを痛めそうな感じなのだが、pedicleのない部分を作成して慎重にscrewを固定する(決して締めすぎない)。移植骨の固定性はこの2本だけでもよさそうだったが、imageで動かしながら確認すると、まだ偽関節部に動きがみられるのを確認してしまう。
19:30 掌側から小皮切で遠位から近位に向かってガイドピンを刺入(一発でほぼ良好な位置に刺入してしまった!!)。舟状骨の形が頭に入っているからこそできる手技である。この一発には恐れ入りました。これで偽関節の位置が若干ずれていたことは多めに見ないといけませんね。AO 3.0mm cannulated screwを刺入して圧迫をかける。長さもほぼ良好なようだ。このscrewはheadlessではないため、少し埋め込み気味に刺入した方が良さそうだった。
20:00 一番興味のあった手術がこのようにして終了となった。今回の症例は偽関節といってもそれ程重症ではなく(DISI変形も僅か)、骨質も悪くなかったので大変ではなかったが、中には骨がスカスカでhump back deformityを呈している症例も多い。そのような場合には背側からだけのアプローチでは難しいと思われる。掌側にこのvasculalized boneを回して固定するという報告も中には見られるが、pedicleが短いとなかなか難しいかも知れないが出来ないことはないかも知れない。教授は掌側からは別に移植骨で楔型にブロック状に移植して更に背側もすることもあるとか言っていた。症例に合わせて色々と検討していかねばならないと思われた。
20:15 今日は教授に夕食は誘われなかった。おそらく週末は出張で留守だったので久しぶりに自宅に帰るのか何か予定があるのかも知れない。フードコートに遅れたが向かってみるとまだぎりぎり営業していたのでほっとする。
21:00 帰って今日のビデオの整理でもするか。少しだけ疲れた感じだが体調は依然好調である。
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